主要出版社からご推薦いただいた多数の応募作品の中から、文芸評論家の大矢博子、末國善己、細谷正充の三氏による第一次選考の結果、候補作は以下の3作品に決定しました。

武内 涼『厳島』(新潮社)

 「戦国三大奇襲」として知られる「厳島の戦い」。兵力わずか四千の毛利元就軍が二万八千の兵を擁する陶晴賢軍を厳島におびき寄せ、奇襲を成功させた名勝負の影には、知られざる壮絶なドラマがあった。吉川元春、小早川隆景ら有力武将を従え、敵どころか味方や血縁すら翻弄する冷酷無比な調略で勝利への道筋を固めていく毛利元就。一方、陶方の武将で岩国の領主・弘中隆兼は、元就の策に気付きながらも、主君・春賢の命に従い死地に身を投じていく――。謀略で勝利した元就と、義を貫いて敗れた隆兼。対照的な2人の男を通して人間の矜持を問う歴史巨編。

 

佐藤 雫『白蕾記』(KADOKAWA)

 大坂の蘭学塾「適塾」を営む名高い医学者、緒方洪庵の妻となった八重。ぎこちない暮らしの中、次第に二人は心を通わせていく。そんな中、恐るべき疫病の疱瘡が流行の兆しを見せはじめた。洪庵と八重は、人々が疱瘡に苦しむことのない世をつくるため、適塾で学ぶ志士たち――大村益次郎、橋本左内、福沢諭吉らと共に新医術「牛痘種痘」を広めようとする。だが、それは長く困難な闘いの始まりだった。多くの人材を育て、近代医学の礎を築いた夫婦のひたむきな愛と絆を描く感動の歴史小説。

 

荒山 徹『風と雅の帝』(PHP研究所)

 皇位継承が持明院統と大覚寺統で交互に行なわれていた鎌倉時代後期、量仁(光厳天皇)は持明院統の期待を背負って即位した。 しかし、幕府が倒される際、六波羅探題軍とともに京都から逃れるも追い詰められ、目の前で六波羅探題ら四百名以上の武士が自刃。捕えられた光厳は、前帝・後醍醐によって即位そのものを否定されてしまう。その後、後醍醐と敵対した足利尊氏に擁立されることで、一度は“治天の君”の座につくも、尊氏の裏切りにより、南朝の囚われの身に――。彼を慕っていた鎌倉武士の死、宿敵・後醍醐との泥沼の闘い、吉野での幽閉の日々……南北朝の動乱の中、「天皇とは何か」を真摯に考え続け、現在の“象徴天皇”にも繋がる生き方を貫いた、“忘れられた天皇”を描く、著者渾身の歴史長編小説。

 
今後の選考工程は、上記3作品から会員の投票結果により上位2作品を選定し、文芸評論家の郷原宏氏(選考委員長)、鳴神響一氏(第3回野村胡堂文学賞受賞者)、竹内博(日本作家クラブ理事長)の3名の合議により上記2作品の中から受賞作品を決定致します。
外部発表は、野村胡堂生誕日(10月15日)、授賞式は11月中に執り行う予定です。