「野村胡堂文学賞」とは
About Nomura Kodo Prize
昭和を代表する国民的作家である野村胡堂を顕彰する目的で、日本作家クラブが創立60周年記念事業の一環として2012年に創設、時代・歴史小説分野を対象にした文学・文芸賞。多様な顔を持つ胡堂のなした膨大な業績の中でも、特に江戸の下町を舞台に“岡っ引き”が活躍する国民文学、捕物小説の一大傑作『銭形平次』を著し、戦前・戦後を通じて庶民、大衆を魅了し、勇気づけた。
「あらえびす文化賞」とは
About ARAEBISU Cultural Prize
野村胡堂は大衆文芸作家として活躍したが、もう一つのペンネーム「あらえびす」として格調高い珠玉の音楽評論活動でも知られ、特に日本初のレコード音楽評論家として一世を風靡した。こうした胡堂の多岐にわたる業績をカバーするために、文学・文芸領域を除く文化全般などを対象として2015年に「あらえびす文化賞」を創設した。
日 時
Date and time
- 令和3年11月18日(木)
午後3時
会 場
Location
- 神田明神
住所:東京都千代田区外神田2丁目16-2
第九回 野村胡堂文学賞 受賞者ならびに受賞作品
9th Nomura Kodo Prize winners and winning works
■受 賞 の 言 葉
偉大なる先人・野村胡堂の名を冠した文学賞をたまわり、ふかい喜びとともに身の引きしまる思いを味わっています。賞の運営に携わられたすべての方々、また、この作品を世に出すにあたり、並々ならぬ力を尽くしてくださった講談社の皆さまに心からお礼申し上げます。
受賞作『高瀬庄左衛門御留書』は、地方の藩に暮らす初老の武士が主人公です。妻と息子を失い、残された嫁とともに手すさびの絵を支えとして生きてゆく――。一見地味ともいえるこの物語に、刊行直後から望外の反響をいただきました。
時折その理由を尋ねられますが、むろん作者にも分かろうはずはありません。が、強いていえば、庄左衛門という人物の生き方が読者の共感を得たのではないでしょうか。
物語の最初、人生に疲れ、心を閉ざしていた彼は、さまざまな人との出会いを通して、ふたたび外の世界へ目を向け、思い通りにならなかった自らの生を受け入れようとします。
生きることは大なり小なり思うにまかせぬものですが、これをそのまま受け入れるのは意外に難しく、私自身、まだそうした心境に至れてはいません。実は遠く、でも、もしかしたら気もちしだいで届くかもしれない半歩先。そうした場所を歩いているのが庄左衛門なのでしょう。私はこうした「半歩先の理想」として彼を描きました。
そのあり方が支持されたのは、生きづらさを抱えている方が多いという証しかもしれません。「100パーセント幸せでなくても、不幸ではない。もし不幸だとしても、生きていていい」と感じていただけたら、庄左衛門も照れくさそうに笑いながら喜んでくれることでしょう。
第九回 野村胡堂文学賞受賞
砂原 浩太朗
■砂原 浩太朗(すなはら こうたろう)氏のプロフィール
1969年生まれ、兵庫県神戸市出身。早稲田大学第一文学部卒業後、出版社勤務を経て、フリーのライター・編集・校正者に。
2016年、「いのちがけ」で第2回「決戦!小説大賞」を受賞。
2021年、『高瀬庄左衛門御留書』(講談社)で第34回山本周五郎賞・第165回直木賞候補、「本の雑誌」同年上半期ベストワン選出、第11回「本屋が選ぶ時代小説大賞」受賞。
他の著書に『いのちがけ 加賀百万石の礎』、共著に『決戦!桶狭間』『決戦!設楽原』『Story for you』(いずれも講談社)、また歴史コラム集『逆転の戦国史』(小学館)がある。
■選 評
また会いたい主人公
時代小説を読む楽しみの一つは、作品に描かれている、魅力ある登場人物に出会うことだと思います。だから、その主人公が、あたかも、実際にこの世にいる人のような存在感を持っていること、これが大事です。
かつての名作で言いますと、例えば銭形平次の推理の面白さはもちろんですが、平次の人情の暖かさを読者は味わい、また会いたくなって、「捕物控」のページを開くのだと思います。
それで、話の筋はもうわかっているのに、何遍でも読みたくなる。少なくとも、昔は、吉田茂のような一流の教養を持った総理大臣から、名もなき庶民にいたるまで、読書にそうしたことを求めていたのだろうと思います。名人の落語と同じです。
砂原浩太朗氏の受賞作でいうと、主人公の、絵を描く物静かな武士であり、人生に一種の諦念を持っているような初老の男、高瀬庄左衛門は、見事にその条件を満たしています。
もちろん、主人公は、いい人ばかりとは限りません。呆れるような悪者、残虐極まる独裁者であってもかまいません。しかし、普通には見られないような魅力を持った人物でなければなりません。
この作品では、場面の転換が、鮮やかで見事です。込み入ったことを記しても、その描写が決してくどくならない。例えて言ってみれば、色紙に上品な淡彩の日本画を描いて、サラサラと並べていくようなところがあります。だから、読後感が爽やかです。いい作品を選ぶことができたと思います。
野村胡堂文学賞 選考委員長
日本作家クラブ評議員 奥本 大三郎
授 賞 式
Photos and Movies
第五回 あらえびす文化賞 受賞者
5th Araebisu Cultural Prize winners
■受 賞 の 言 葉
ジャズが誕生してから早100年以上が経ちました。特に我が国でも、戦前からは勿論のこと、戦後のジャズブームは目を見張るものがあり、コンサートは元より、クラブ、ダンスホール等をはじめ、音楽喫茶では昼夜を問わず生の演奏が行われていました。最近では、そうしたブームは残念ながら見られず、メディアを始めとして若者オンリーの流行物が大半を占め、ジャズが発信されても一部分のジャズのみがとらえられがちな傾向にあります。ヨーロッパのクラシック音楽同様(少なくともバッハ~ストラヴィンスキー)の取り上げ方が必要と日頃から感じています。
ジャズの場合、他の文化と異なり100年以上の年月を猛スピードで駆け抜け、変遷を遂げて来たものですから、実態をしっかり把握できないうちに次々と新しいものへと振り廻されて来たキライがあります。行き着くところまで来た感のあるジャズですが、勿論ニューサウンドへの挑戦もまだまだ必要でしょう。しかしそれ以上に原点を振り返ることも大事です。根っこが見えないとそのまま崩れ去る恐れがあるからです。
しかし、こうした状況の中にも一筋の光明が見えてきている喜ばしい事実があります。それは、確実に時代が一廻りした事を感じさせる風潮がある事です。最近の若者音楽家達が昔を振り返るのではなく、往年の文化を新しいものとして受け取り、自分達が演ずる事に嬉々としている……これは大事に見守って行かなければと思っている次第です。
僕自身は、戦後のジャズブーム第二期と云ったところでしょうか、先輩ジャズメンの後を追うべく今日までベニー・グッドマンに代表されるスタイルで活動を続けて来ています。
そして、1996年よりヨーロッパそしてアメリカで開催されるジャズフェスティヴァルに毎年招聘される機会に恵まれ、欧米の伝統を守る音楽家達に混じり、良い経験を積み重ねています。因みに、1986年に他界したベニー・グッドマンのメモリアルコンサートを毎年続けており、今年で35年目になりました(昨年はコロナ禍故、中止に)。先日6月13日に第34回目を行ったばかりです。
こうした長年にわたるジャズ演奏活動を評価していただき、野村胡堂先生の音楽評論家としてのペンネームにちなんだ“あらえびす文化賞”受賞の栄誉に浴することは望外の喜びです。今回の受賞を糧により一層精進していく覚悟です。関係者の皆様、真にありがとうございました。
第五回 あらえびす文化賞受賞
花岡 詠二
■花岡 詠二(はなおか えいじ)氏のプロフィール
東京都出身。日本大学芸術学部音楽学科卒。日本を代表するクラリネット・プレイヤー。ベニー・グッドマン・スタイルのスイング・コンボ「花岡詠二スヰング・オールスターズ」をメインに、コンボからオーケストラまで様々なスタイルのグループを編成し、多彩な演奏活動を展開している。母校・日芸で非常勤講師を務め後進の育成にも取り組む。
■選 評
1930年代、アメリカ大恐慌の中に、人々の心に響き躍動する音楽が全米のラジオに流れました。スウィングジャズ ベニーグッドマンの登場です。時に優しく、時に激しいビートは全米を熱狂させ、クラシック音楽の殿堂、カーネギーホールのコンサートでその波は頂点に達しました。やがて、その伝記が映画化され「ベニーグッドマン物語」として日本で上映されるとスウィングジャズの波が駆け巡りました。
花岡詠二氏は、和製ベニーグッドマンと呼ばれ、クラリネット奏者として、そのテクニックと洗練された演奏は素晴らしく、またフルバンドを率い日本各地でコンサートを開催、ジャズの発展に大いに貢献されました。
1900年代の初頭、ニューオルリーンズを含むアメリカ南部はフランスの統治下にありました。そこで通用していたコインはディックスといい、この地はディキシーランドと呼ばれました。人々はフランスの軍楽隊が置いていった楽器を吹き鳴らし、ディキシーランドジャズが生まれました。まさにジャズの原点はこのブルース、ディキシーランドジャズにあります。花岡氏はディキシーにも精通し、あらゆるジャズに挑戦され、ご活躍中であります。多くのジャズ メンはコンボスタイルによるジャズサウンドを追求しています。
花岡氏はコンボジャズは勿論、フルバンドによるブラスの魅力を展開し、各地で定期的にコンサートを続けております。今後の更なる活躍を大いに期待するものであります。
あらえびす文化賞 選考委員長
日本作家クラブ理事長 竹内 博
授 賞 式
Photos and Movies
「野村胡堂文学賞・あらえびす文化賞」協賛法人・団体
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