「野村胡堂文学賞」とは
About Nomura Kodo Prize

昭和を代表する国民的作家である野村胡堂を顕彰する目的で、日本作家クラブが創立60周年記念事業の一環として2012年に創設、時代・歴史小説分野を対象にした文学・文芸賞。多様な顔を持つ胡堂のなした膨大な業績の中でも、特に江戸の下町を舞台に“岡っ引き”が活躍する国民文学、捕物小説の一大傑作『銭形平次』を著し、戦前・戦後を通じて庶民、大衆を魅了し、勇気づけた。授賞式は毎年、原則として胡堂の生誕月である10月に、銭形平次の記念碑のある神田明神で執り行う。

「あらえびす文化賞」とは
About ARAEBISU Cultural Prize

野村胡堂は大衆文芸作家として活躍したが、もう一つのペンネーム「あらえびす」として格調高い珠玉の音楽評論活動でも知られ、特に日本初のレコード音楽評論家として一世を風靡した。こうした胡堂の多岐にわたる業績をカバーするために、文学・文芸領域を除く文化全般などを対象として2015年に「あらえびす文化賞」を創設した。

日 時
Date and time

  • 令和2年10月15日(木)
    午後3時

会 場
Location

  • 神田明神
    住所:東京都千代田区外神田2丁目16-2

第八回 野村胡堂文学賞 受賞者ならびに受賞作品
8th Nomura Kodo Prize winners and winning works

今村翔吾 著『八本目の槍』(新潮社刊)

■受 賞 の 言 葉

 この度、野村胡堂文学賞を賜りましたことを深く御礼申し上げます。また本賞に携わられた全ての方に感謝の意を表します。
 本作を書こうと思ったのは、久しぶりの同窓会がきっかけでした。人間三十を超えると人生の色が滲み出てくるもの。社会的地位の高い職に就く者もいれば、失業したばかりの者もいる。一般的には前者が幸せで、後者が不幸せと思う人が多いでしょう。しかしながらエリート官僚と呼ばれる地位にありながら、疲れ果てた虚ろな目でビールを流し込む者もいれば、出世はもう無理と苦笑しながらも趣味について楽しそうに語る者もいる。幸せとは何かを考えさせられると共に、会っていない間の彼らの人生が如何なるものだったのかと思いを馳せました。
 昔話に花が咲きました。皆で悪戯をしただの、誰かが喧嘩をしただの、好きな子に告白しただの、本当に他愛もない話です。そんな瞬間だけは皆、昔のままの顔をしている。
 そして夜が更けて来ると、
「ごめん。明日、早朝に出張だから」
 と一人席を立ち、
「妻が怒ってる」
 と、片手で拝むようにして苦笑して帰っていく。日常へと戻っていくのです。
 そんな彼らの背を見送りながら、戦国時代でもこのようなことがあったのではないか。むしろ動乱だからこそ色濃く出ることはないかと茫と考え、この小説を書くことを決めました。
 大人になって変わることがある一方で、大人になっても変わらぬこともある。そんな想いを込めて書きました。それぞれの青春が蘇る。皆様にとってそんな小説であることを願っております。

第八回 野村胡堂文学賞受賞
今村 翔吾

■今村 翔吾(いまむら しょうご)氏のプロフィール


1984年京都府生まれ、滋賀県在住。ダンスインストラクター、作曲家、守山市埋蔵文化財調査員を経て作家デビュー。
2016年「狐の城」で九州さが大衆文学賞大賞・笹沢左保賞受賞。
2018年「童神」で角川春樹小説賞受賞。『童の神』(「童神」改題;角川春樹事務所)で直木賞候補。
2020年『八本目の槍』(新潮社)で吉川英治文学新人賞、野村胡堂文学賞受賞。『じんかん』(講談社)で直木賞候補。

■選 評

「賤ヶ岳の七本槍、みんな言えるか?」
「言えるとも。えーと加藤清正だろ、福島正則だろ、片桐且元だろ、脇坂・・えーと」
と昔の子供は、「少年クラブ」の付録などの『太閤記』で仕入れた知識を競い合ったものである。」
 その次は、清水の次郎長の子分の名前。
 そうやって子供の時覚えた名前は、いつまでも頭から消えないもので――同級生の名もそうだが――歳を取っても、姓名がちゃんと繋がって口を衝いて出るから面白い。
 今の受験生は、こういう英雄譚は教えられていない。その代わりに受験知識がある。
「賤ヶ岳の戦いは、本能寺の変の後、秀吉と柴田勝家が、織田信長亡き後の政治の主導権を争った戦い」などとちゃんと整理された知識が頭に入っているらしい。
 しかし、それらの人物には人間の顔がついていない。だから客観的ではあっても、話が面白くないだろうと思う。その点、この作品には生きた人間が登場する。歴史の魅力は、煎じ詰めれば人物である。
「一本目 虎之助は何をみる」から「七本目 槍を探す市松」まで、本書は八つの短編で構成されており、その一つ一つに、主人公となる若者の行動と心理が描かれている。そうして最後に合わせてみると、時代を物語る、一種爽やかな青春群像ともいうべきものになっているのである。
 血しぶきの飛ぶ戦闘場面、胸のすくような剣戟場面も鮮やかに繰り広げられているけれど、それを描くことが作者の一番の目的ではないようだ。
 何よりもこの若者たちの内面の葛藤が、今の世の人間心理にも通じるものであることが大きい。戦闘での恐怖心、英雄崇拝、出世欲、嫉妬心、憐憫の情、それから、あえて言えばヒューマニズム。
 そういうものを、彼らが我々と共有していたか、といえばそれはもちろんわからない。しかし、そう書くしかない、と作者は開き直っているようである。だから、我々もつまづくことなく読むことができる。そして、それがこの小説を、秀れた歴史文学にしている。

野村胡堂文学賞 選考委員長
日本作家クラブ評議員 奥本 大三郎

■選 考 次 第

 歴史&時代小説などと一口に言うが、双方は似て非なるものである。歴史小説はかつての有名人を配するが、時代小説は現代ではないかつての時代(江戸時代が大半で、ときどき明治)を舞台に、庶民(若しくはそれに近い人物)を配した物語である。
 野村胡堂文学賞は、それらの小説を世に送ったプロの中堅作家を対象とした文学(奨励)賞である。
 毎年11月末頃から年末にかけて、各出版社の文芸担当編集者の方々に推薦図書をお送りいただいている。今年は35篇が集まり一覧表にした物を、三人の文芸評論家に見せて採点を仰ぎ、当方で合計を算出している。
 その結果、上位9作品を選出し、私を含めた三人の実行委員が3作ずつ読み、その中の一位3作を、会員の投票にかけている。その間は約二月半で、〆切は5月末日である。
 投票の結果で、一冊が落ちることになる。つまり、対立候補2作の争いである。
 最後の決断は、奥本大三郎先生の双肩にかかることとなる。約一ヶ月の最終選考期間を待ち、結果を聞きに行くわけだが、先生の事務所のインターホーンを押す指が震える思いだ。
 今回の受賞作は今村翔吾著『八本目の槍』(新潮社)である。歴史好きの方々は、タイトルだけで「賤ヶ岳七本槍」を脳裏に思い起こそう。そして、それならば八人目はいったい誰なのかと、頭を巡らせるはずだ。この小説の醍醐味は、そこにもあるのだ。
 惜しくも賞を逸した次席作品は、谷津矢車著『奇説無惨絵条々』(文藝春秋)で、歴史と時代双方の要素を含んだ作品である。

野村胡堂文学賞 実行委員長
日本作家クラブ副理事長 塚本 靑史

 
 

第四回 あらえびす文化賞 受賞者
4th Araebisu Cultural Prize winners

一般財団法人 100万人のクラシックライブ





■受 賞 の 言 葉

 この度は図らずも「あらえびす文化賞」の受賞という栄誉にあずかりましたこと、誠に光栄に存じます。日本作家クラブの竹内理事長はじめ関係各位に対しまして厚く御礼申し上げます。
 100万人のクラシックライブの活動は5年前の2015年から本格的にスタート致しました。クラシック音楽のもたらす感動をたくさんの方に伝えたい、そういう思いで始めた出張出前コンサートです。バイオリンなどの弦楽器とピアノ(持ち運べる電子ピアノも使います)のデュオやトリオの演奏を北は北海道から南は沖縄まで全国各地で行って参りました。活動は本番の機会の少ない若手演奏家たちに活動の場を提供し、もっと社会と繋がって欲しいということでもあります。
 バブル崩壊後の失われた30年の間に、この国のコミュニティは弱体化し、人と人とのつながりは大変希薄になりました。人々が集い音楽のもたらす感動を共有することで、心豊かで緩やかな人のつながりを作り出す、この活動はまた人が集まる場作りでもあります。
 2019年には年間449回のコンサートに25,892人の方が参加されました。コロナの影響でライブのコンサートは減っていますが、逆境を逆手にとってオンラインでのコンサートの配信や、子ども食堂や学習支援など、支援を必要としている子どもたちやお母さんたちにもコンサートを届ける活動も始めています。
 改めて野村胡堂さんとあらえびすの活動を振り返る時、関東大震災で落ち込んだ人々にクラシックの響きを届けて心の癒しをもたらすところから、戦争の影が色濃い昭和前期の時代に心の拠り所を提供し続けられたあらえびすは、僭越ながら私どもの目指すものとどこか繋がっているように思います。
 この度の受賞は、私どもの活動をもっと頑張れと背中を押していただいたものと思っています。これからも音楽の力でより良い社会を目指すべく活動を進めて参ります。引き続きこの活動に目を向けて頂ければ幸いです。
 最後に日本作家クラブの皆様の益々のご活躍を祈念しお礼のご挨拶とさせて頂きます。


 

 

 

 

 

 

一般財団法人 100万人のクラシックライブ
代表理事 蓑田 秀策

■一般財団法人 100万人のクラシックライブのプロフィール

「100万人のクラシックライブ」は、クラシック音楽の出張出前コンサートを通じて社会に幅広く普及、伝達することを目的に結成された一般財団法人。2015年から本格的ライブ活動を全国展開し、これまでに累計8万人以上の聴衆を魅了している。最近はコロナ禍でのオンライン配信にも注力。代表理事は蓑田秀策氏

■選 評

 第四回「あらえびす文化賞」を受賞された一般財団法人「100万人のクラシックライブ」は、クラシック音楽を広く多くの人々に身近な所でお聴かせしている団体です。演奏は音大の学生からプロのベテランまでの方々にお願いしているとのことです。2015年から全国各地で活動を開始し、これまでの聴衆者は延べ八万数千人に及んでいる。
 野村胡堂は銭形平次捕物控の発刊(昭和6年)の10年前から、日本初のクラシック音楽の解説者として活躍し、そのペンネームが「あらえびす」でした。関東大震災直後、近所の人々にクラシック音楽(レコード)を聴かせて心に安らぎを与え、当時の報知新聞にコラム「ユモレスク」でクラシック音楽を解説し、学徒出陣時には多くの学生にベートーベン第9合唱を聴かせたこと等はつとに有名です。
 「100万人のクラシックライブ」は、正しく「あらえびす文化賞」授賞に相応しい団体と考える次第です。

あらえびす文化賞 選考委員長
日本作家クラブ理事長 竹内 博

 

授 賞 式
Photos and Movies

神田明神会館にて代表理事の蓑田秀策(みのだ・しゅうさく)氏に賞状と、神田明神から賞金が贈られました。

コロナ禍のなか少人数での簡素化を心掛け、懇親会を中止し、およそ30分程度の授賞式となりました。

代表理事の蓑田秀策氏とマネジメントコミッティメンバーの加藤美晴女史

 

「野村胡堂文学賞・あらえびす文化賞」協賛法人・団体
OFFICIAL SPONSORS

株式会社 ファミリーマート

江戸総鎮守 神田明神